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応用地域学会論文賞
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論文賞の趣意
応用地域学会論文賞(Best Paper Award of ARSC)は、地域科学研究発展の視点に立ち、会員の活発な研究活動を奨励することを目的とし、<応用地域学研究>ならびに<RURDS>に掲載された学会員の論文を対象に、最も優れた論文に与えられます。
■ 論文賞選考規程
各年度の授賞論文と選考理由
2023年度 授賞論文と選考理由
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論文名:新幹線駅の新設が市区町村の人口に与えた影響―Synthetic Control Methodを用いて―
掲載誌:応用地域学研究 2023巻 27号pp.1-16
著 者:竹林 幹人・瀬谷 創・村田 祥之
選考理由:
本論文は、さまざまな地点や時期における新幹線駅の新設が市区町村の人口に与えた個別の処置効果を Synthetic Control Method により分析したものである。二方向固定効果モデルの平均処置効果を利用して交通インフラの投資効果を推定する場合、異質性を無視したその効果には符号レベルでのバイアスが生じることが知られている。そこで、本論文では平均的な処置効果ではなく、各都市の処置群における処置効果を推定し、その効果に対して事後的な解釈を与えるというアプローチをとっている。分析により次の4つの点が明らかとなった。(1) 新幹線開業の効果は正負が混在する。(2) 処置効果は開業時の人口と正の相関を持つ。(3) 処置効果は経年的に、特に1980年代以降弱まっている。(4) 処置効果は現在の政令指定都市からの距離の増加に対して急激に弱まる傾向にあるが、減少は単調ではない。
以上のように、本論文は従来から行われきた交通インフラ投資の効果計測における事後評価研究を精緻化した点で優れており、整備新幹線の対費用効果や地域の活性化を考える上でも政策的含意に富んだ研究である。よって、2023年度の応用地域学会論文賞にふさわしい論文である。
2023年度 論文賞選考委員会
委員長 唐渡 広志(富山大学)
委 員 吾郷 貴紀(専修大学)
委 員 松島 格也(京都大学)
委 員 高橋 孝明(ARSC会長)
委 員 森 知也 (ARSC副会長)
2022年度 授賞論文と選考理由
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論文名:待機児童問題解消のための助成金の設計
掲載誌:応用地域学研究 2020巻 24号pp.1-17
著 者:栗野 盛光・野田 寛人・高原 勇・綿引 由美
選考理由:
本論文は、保育園選好の地域的偏在に起因する待機児童発生問題に対して、マッチング・ルールと金銭移転(保育料と助成金)ルールからなるメカニズムを提案し、その特性の厳密な理論解析とシミュレーション結果を示している。より具体的には、まず、児童待機問題を金銭移転のある非分割材配分問題として定式化した上で、日本で用いられているメカニズム(優先順序マッチングルール+保育料)が,決定効率性や個人合理性を満たさず(i.e.,理論的に望ましいメカニズムではなく)、待機児童発生問題が生じることを指摘している。そして、オークション理論(VCGメカニズム)を基に、待機児童が発生せず、耐戦略性・決定効率性・個人合理性を満たす(i.e.,理論的に望ましい性質を持つ)保育料と助成金を導出している。さらに、シミュレーションによって現行制度と提案制度の保育料・助成金を比較し、制度変更の妥当性・可能性を議論している。
以上のように、本論文は、地域公共施設(保育園)で生じている重要な問題(待機児童発生)を解消する制度をいかに設計すべきかをメカニズム・デザイン理論に基づいて明快に議論しており、学術的貢献のみならず、政策的にも重要な含意を持つ論文である。よって、応用地域学会論文賞にふさわしいものであると認めます。
2022年度 論文賞選考委員会
委 員 赤松 隆 (東北大学)
委 員 唐渡 広志(富山大学)
委 員 吾郷 貴紀(専修大学)
委 員 奥村 誠 (ARSC会長)
委 員 高橋 孝明(ARSC副会長)
2021年度 授賞論文と選考理由
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論文名:不動産仲介の兼任制度に関する理論的基礎について
掲載誌:応用地域学研究 2019巻 23号pp.24-44
著 者:山崎 福寿・瀬下 博之・定行 泰甫
選考理由:
日本では、同一の不動産仲介業者が売り手と買い手の代理人になる兼任制度(いわゆる「両手取引」)による不動産取引が常態化しており、それが既存住宅市場を停滞させる一つの要因であるといった指摘が多く見受けられるが、それらは理論的な根拠に基づいて論じられてきたわけではない。本論文は、兼任制度とクロス・エージェンシー(いわゆる「片手取引」)で、価格付けと取引確率にどのような違いが生じるのかを明示的に分析するための理論的基礎を提供している。この問題は、日本の住宅市場の効率性に関わる重要な制度であるにも関わらず従来十分に研究されてこなかった。本論文は、兼任制度の是非をクロス・エージェンシーと比較することで、理論的に明快に分析し、かつ、政策的含意を導出している。本論文は、研究テーマ・内容の独自性・発展性の点で、高く評価できるものであり、2021年度の応用地域学会論文賞にふさわしい論文である。
2021年度 論文賞選考委員会
委 員 城所 幸弘(政策研究大学院大学)
委 員 赤松 隆(東北大学)
委 員 唐渡 広志(富山大学)
委 員 奥村 誠 (ARSC会長)
委 員 高橋 孝明(ARSC副会長)
2020年度 授賞論文と選考理由
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論文名:地域産業政策の成果に関するパネルデータ分析
掲載誌:応用地域学研究 第22号(2018) pp. 25-35
著 者:岩橋培樹(琉球大学)
:亀山嘉大(佐賀大学)
選考理由:
本論文は、2001年以降,我が国の製造業の国際的な競争力の向上を目的に進められてきた、産業クラスター計画、知的クラスター創成事業、構造改革特区という3つの地域産業政策の成果を検証するために、1991〜2014年の都道府県パネルデータの分析を行った労作である。誤差項の分散不均一性を考慮した産業中分類レベルの綿密な分析により、政策のポジティブな効果が発現していないことを明らかにした。さらに、地場の中小企業の可能性を理解せずに、すでに地場に存在する有力企業を想定した申請が行われたり、過去の実績を重視する審査が行われた結果として、大企業が支配的な地域で政策が実施されている実態を確認し、それが成果に結びつかなかった原因であることを指摘している。このように本論文の結果は、地域産業政策の有効性に疑問を投げかける重要な政策的含意を持っており、学術的に有用なだけでなく、政策的にも非常に重要な論文である。
よって、本論文は応用地域学会論文賞を授与するにふさわしいと判断した。
2020年度 論文賞選考委員会
委 員 城所 幸弘(政策研究大学院大学)
委 員 赤松 隆(東北大学)
委 員 大澤 義明(ARSC会長)
委 員 奥村 誠 (ARSC副会長)(委員長代理)
2019年度 授賞論文と選考理由
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論文名:ECONOMIC ANALYSIS OF POPULATION MIGRATION FACTORS CAUSED BY THE GREAT EAST JAPAN EARTHQUAKE AND TSUNAMI
掲載誌:Review of Urban & Regional Development Studies 30(1)(2018)PP.44-65
著 者:Yasuo Kawawaki
川脇康生(関西国際大学経営学部経営学科教授)
選考理由:
本論文は、研究者のみならず多方面から関心を集めている東日本大震災後の人口減についてその要因を詳細に分析したものである。特に、他の類似研究とは異なり、個票データを用いた分析に特長がある。著者は、災害に関する研究にこれまでも注力しており、これまでの著者の研究知見も多く取り入れられている。本研究は、震災3年後に被災地住民を対象とした意識調査を用いて、移住要因を探っている。その結果、居住市町村内移住と居住市町村外移住の要因の違い(例えば、所得要因が後者のみに効く)を得ている。また、非持ち家、高所得、若年層が居住市町村外への移住の要因であること等、詳細に要因が分析されている。
他にもオリジナルの結果が多く示されており、人口維持を政策目標としている多くの被災地に有益な情報を与える研究である。以上のように本研究は大変高く評価でき、応用地域学会賞にふさわしいと認められる。
2019年度 論文賞選考委員会
委員長 河野 達仁(東北大学)
委 員 浅田 義久(日本大学)
委 員 城所 幸弘(政策研究大学院大学)
委 員 大澤 義明(ARSC会長)
委 員 奥村 誠 (ARSC副会長)
2018年度 授賞論文と選考理由
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論文名:AIRPORT PRIVATIZATION COMPETITION INCLUDING DOMESTIC AIRLINE MARKETS
掲載誌:Review of Urban & Regional Development Studies 29(1) (2017) pp. 1-17
著 者:Akio Kawasaki(Faculty of Education, Kagoshima University)
(受賞時所属:川﨑 晃央 大分大学経済学部准教授)
選考理由:
本論文は、国内航空市場におけるハブ空港の民営化問題を扱った研究である。従来の研究を発展させ、各国がハブ空港のみならず複数の国内航空市場を持つ場合、均衡で空港の民営化が存在するか否かを分析している。シミュレーション分析を用いた結果、両国で製品差別化の度合いが小さく、非常に小さい国内航空市場を持つ場合は、空港の民営化がナッシュ均衡で生じる。それに対して、一方の国が大きな国内航空市場を持つ場合は、従来の結果とは異なり、公的空港が均衡となる。さらに、航空市場の数と製品差別化の度合いによって、非対称均衡となる可能性があることを示している。既存研究との結果の違いは、国内航空市場の考慮によるものであり、この考慮は極めて自然である。
以上のように、本論文は理論的にオリジナルな結果を示すことに成功し、政策的にも意義のある研究であることから、応用地域学会賞にふさわしいと認めます。
2018年度 論文賞選考委員会
委員長 河端 瑞貴(慶應義塾大学)
委 員 河野 達仁(東北大学)
委 員 浅田 義久(日本大学)
委 員 安藤 朝夫(ARSC会長)
委 員 大澤 義明(ARSC 副会長)
2017年度 授賞論文と選考理由
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論文名:IoT車両情報の速度に関するモニタリング選択問題
掲載誌:応用地域学研究 第20号(2016)pp.25-35
著 者:栗野 盛光(筑波大学システム情報系社会工学域), 高原 勇(筑波大学システム情報系社会工学域)
選考理由:
本論文は、自動車の運転者が政府による走行速度のモニタリングを受けるか受けないかを自分で選択するとき、モニタリングを受けることを自発的に選択するようにするには、金銭的授受の制度をどのように設計すればよいかを、厳密なモデルを構築して分析したものである。走行速度のモニタリングは、IoT車両情報が利用できるようになった比較的最近の技術で、それをメカニズムデザインの枠組みで分析するという試みはこれまでになされておらず、非常に独創的な研究である。また、自動車の走行速度の誘導という政策課題に対するインプリケーションも大きい。さらに、モデルの設定はシンプルで頑健で汎用性も高く、分析は正確で必要十分である。
以上のように、本論文は、今後の応用地域学の新しい方向を示す模範的な論文であり、応用地域学会論文賞にふさわしいと判断する。
2017年度 論文賞選考委員会
委員長 高橋 孝明(東京大学)
委 員 河端 瑞貴(慶応義塾大学)
委 員 河野 達仁(東北大学)
委 員 安藤 朝夫(ARSC会長)
委 員 大澤 義明(ARSC 副会長)
2016年度 授賞論文と選考理由
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論文名:DISSATISFACTION WITH DWELLING ENVIRONMENTS IN AN AGING SOCIETY: AN EMPIRICAL ANALYSIS OF THE KANTO AREA IN JAPAN
掲載誌:Review of Urban & Regional Development Studies 27(3)(2015)PP.149-176
著 者:Noriko Ishikawa and Mototsugu Fukushige
石川 路子(甲南大学経済学部経済学科), 福重 元嗣(大阪大学大学院経済学研究科)
選考理由:
本論文は、独自に大規模なアンケート調査を実施して、関東地方の人々の転居に関する希望と居住環境の不満足度との関係について分析したものである。その結果、交通、店舗、医療施設へのアクセスが転居において重要な要因となることを明らかにしている。人々は交通、店舗、医療施設へのアクセスが容易な豊かな地域へ転居を望む一方で、そのような地域においては居住に必要な生活費が高くなるため、居住環境への不満足が解消されないこと、高齢になるに伴い生活費や家族・知人との関係も重要な要因になることなども明らかにしている。
これらの結果は、高齢化に直面する日本やその他の国々における住宅政策や、いわゆるコンパクトシティなどの都市政策の意義を考える上で、有益な知見を与えるものであると高く評価できる。
以上のように、本論文は計量経済学の標準的な手法を用いつつ、独自の調査に基づく貴重なデータを構築することで、地域の今日的な政策課題への挑戦に対して多くの示唆を得ることに成功した模範的な論文であり、応用地域学会論文賞にふさわしいものであると認めます。
2016年度 論文賞選考委員会
委員長 堤 盛人(筑波大学)
委 員 高橋 孝明(東京大学)
委 員 河端 瑞貴(慶応義塾大学)
委 員 文 世一(ARSC会長)
委 員 安藤 朝夫(ARSC 副会長)
2015年度 授賞論文と選考理由
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論文名:CHILDCARE ACCESS AND EMPLOYMENT: THE CASE OF WOMEN WITH PRESCHOOL-AGED CHILDREN IN TOKYO
掲載誌:Review of Urban & Regional Development Studies 26(1)(2014)PP.40-56
著 者:Mizuki Kawabata(河端 瑞貴)
選考理由:
本論文は、東京都区部における未就学児童保育施設需給の空間的ミスマッチと、それが母親の就業成功率に与える影響について、国勢調査統計区レベルの人口データと、個々の保育施設の年齢別受け入れ数データをGISを駆使して定量的に分析したもので、女性の就業促進環境の改善という社会的な要請の大きい政策を考えるうえで有用な論文となっている。
この分析では、児童の年齢によってサービスを提供している施設の数や分布が異なることに着目し、実際に0-2歳という低年齢層ほど需給バランスが大きく崩れている地域が多いことを実証的に示している。さらに、独自に収集された未就学児を持つ母親のアンケート調査データと結合してプロビットモデル分析を行った結果、希望するタイプの保育所が存在することにより、0-2歳児を持つ母親が希望の職種に就業できる確率が62%上昇することを示し、これは3-5歳児を持つ場合の23%の上昇に比べて大きな効果を持つことを明らかにし、今後の保育環境改善の方向性に対して有益な示唆を与えている。
本論文は、個々の保育施設への照会によるデータを含め、労力をかけて多量のデータを収集し、アドレスマッチングの適用によって一元的な空間分析を行ったもので、今後、住所や希望就業先に関する詳細な情報を含むアンケート調査と結合するなどの拡張も期待できるものとなっており、発展の余地が大きいと考えられる。
以上のように、本論文は新しい手法を駆使して現代的な課題に果敢に挑戦し、明瞭な結論を得ることに成功した模範的な論文であり、応用地域学会論文賞にふさわしいものであると認めます。
2015年度 論文賞選考委員会
委員長 奥村 誠(東北大学)
委 員 堤 盛人(筑波大学)
委 員 高橋孝明(東京大学)
委 員 文 世一(ARSC会長)
委 員 安藤朝夫(ARSC 副会長)
2014年度 授賞論文と選考理由
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論文名:
「交通アクセス改善が観光サービス産業の集積に与える影響」
掲載誌:応用地域学研究No.18(2014)PP.29-40
著 者:森本裕
選考理由:
本論文は、交通アクセスの改善が観光産業の集積や観光地間の競争に与える影響について、新経済地理学モデルを用いて分析したもので、2006年の観光立国推進基本法の制定を受けて観光産業の推進が課題となっている我が国の観光政策を考えるうえで有用な論文となっている。先行研究と比較して、本論文では財ではなく人が移動する、消費者は対価を払うことなく景色や文化などから効用を得るという観光の特性を組み込んだモデルを提案し、さらに各観光地に立地する企業数の順位が交通費用の低下により発生する可能性を示している点に大きな貢献がある。このモデルでは、消費者は、出発点である都市からまず広域的な交通機関を用いて結節点に至り、そこから複数の観光地を選んで移動するという空間構造を仮定してモデル化している。広域的な交通機関の交通条件の改善が来客数、観光企業への需要と利潤に与える影響を、短期(消費者の目的地選択は変化するが観光企業の立地は変化しない)と、長期(企業の立地の変化も許した)に分けて分析し、有用な結論を得ている。さらに結節点から先で複数の観光地を周遊できる場合についても拡張し、短期的には交通費用の低下により周遊を選択する消費者が増加するものの、長期的には周遊を選択する消費者数は増加するとは限らないという興味深い結果が示されている。
本論文は、観光産業の競争の分析を簡潔なモデルで見通し良く行っており、今後観光地間の協調を考慮したモデルへの拡張や、複数均衡の存在に関する研究への拡張も期待できるものとなっており、発展の余地が大きいと考えられる。
以上のように、本論文は応用地域学分野の標準的な手法により、現代的な課題に挑戦し、明瞭な結論を得ることに成功した模範的な論文であり、応用地域学会論文賞にふさわしいものであると認めます。
2014年度 論文賞選考委員会
委員長 大澤 義明(筑波大学)
委 員 奥村 誠(東北大学)
委 員 堤 盛人(筑波大学)
委 員 中村 良平(ARSC会長)
委 員 文 世一(ARSC 副会長)
2013年度 授賞論文と選考理由
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論文名:
「Weighted-Average Least Squares の空間計量経済モデルへの適用」
掲載誌:応用地域学研究 第16号(2011)
著 者:瀬谷創・堤盛人・山形与志樹(3名とも学会員である)
選考理由:
近年、地域科学関係の国際会議や国際誌においては、空間計量経済学の占める割合が非常に高くなっている。一方で、我が国では空間計量経済学を専門とする研究者は数える程しかおらず、実証研究も未だ少ない。そのような中で著者らは、空間計量経済学に関する理論・実証研究を積み重ねており、本論文は、空間計量経済モデルにWeighted-average least squares (WALS)と呼ばれるモデル平均化アプローチを適用した独創性の高い研究である。本論文では、緻密な2種類のモンテカルロ実験により、(1)データ発生過程が空間的自己相関を持つ確率過程である場合、従来の非空間推定量が過大方向のバイアスを持つため、単純な非空間モデルの適用が誤った政策的示唆につながる可能性があること、および(2)空間計量経済モデルとWALS の組み合わせが、除外変数バイアスの緩和に有用であること、が示されている。モデル平均化に空間的自己相関を導入する一つの方法論を提示しつつ、空間的自己相関を無視することの危険性を示した本研究の意義は非常に大きい。
よって、本論文は応用地域学会論文賞を授与するにふさわしいと判断した。
2013年度 論文賞選考委員会
委員長 黒田 達朗(名古屋大学)
委 員 大澤 義明(筑波大学)
委 員 奥村 誠(東北大学)
委 員 中村 良平(ARSC会長)
委 員 文 世一(ARSC 副会長)