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      坂下賞
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坂下賞の趣意
応用地域学会の創設者、故坂下昇先生の本学会に対するご功績を称え、坂下賞(Sakashita Prize)を創設することが2004年度の学会総会で決議されました。坂下賞は、地域科学研究の発展に顕著な貢献をした、満40歳以下の若い研究者を顕彰することを目的としています。
 
坂下賞(Sakashita Prize)選考規程
各年度受賞者紹介

(受賞者・選考委員の所属等は,授賞当時のものです)

2023202220212020201920182017201620152014
2013201220112010200920082007200620052004



2023 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 村上 大輔
統計数理研究所 データ科学研究系 准教授

授賞理由:
 空間統計学とその地域科学への応用に関する村上大輔氏の研究は国内外で高く評価されており、地域科学分野の主要国際誌Landscape and Urban Planning(IF:8.119)、Environment and Planning B(IF:3.511)、Geographical Analysis(4本; IF:3.566)、Annals of American Association of Geographer(2本; IF:3.981)を含む42編が査読付き国際誌に採択されているほか、第12回米谷佐佐木賞、Finalist in The 59th NARSC Student Paper Competitionなどの数多くの賞を受賞してきた。同NARSC以降、空間統計学の大家であるD.A. Griffith教授(Texas大)との共同研究を継続的に実施しているともに、同分野の著名な研究者であるC. Brunsdon教授グループ(Maynooth大)との共同研究も開始するなど、国際共同研究ネットワークを着々と広げて成果を上げている。
 一連の研究で、村上氏は空間統計手法の開発・高度化を推進し、従来法では困難であった大規模で複雑な時空間データの統計解析を可能としている。それらの成果を、統計ソフトウェアRのパッケージspmoranとして公開し、誰でも使える形で随時公開してきた。同パッケージは経済・疾病・防犯・生態系などに関する幅広い地域研究で広く利用されている。さらにRコードと連携した空間統計学の教科書も執筆し、同書は地域研究における統計解析を支える重要な書籍となっている。
 その他、空間統計手法のRによる実装についての公開講座を計3回主催したほか(毎回100名以上参加)、COVID-19に関する公開シンポジウムの主催、環境統計学に関するシンポジウムの共催などを通じた啓蒙活動にも積極的に取り組んでおり、我が国におけるそれらの分野における研究の発展、研究者育成にも大いに貢献してきている。
 村上氏は、これまでに2本の査読付き論文が応用地域学研究に採択されているとともに、8件の筆頭著者論文、6件の共著論文をARSC研究発表大会で発表している。以上の理由により、2023年度坂下賞を村上大輔氏に授与することとする。

2023年度 坂下賞選考委員会
   委員長 山本 和博(大阪大学)
   委 員 塚井 誠人(広島大学)
   委 員 小川 光 (東京大学)
   委 員 高橋 孝明(ARSC会長)
   委 員 森 知也 (ARSC副会長)


2022 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 森田 忠士
近畿大学経済学部総合経済政策学科 准教授

授賞理由:
 森田忠士氏は、地域経済と労働市場の関係についての理論分析において先駆的な研究を行い多くの成果をあげてきた。その研究成果は、査読付き国際雑誌に12編の論文として掲載されている。
 2018年のJournal of Regional Science誌に掲載された論文では、産業集積と労働時間の地域間格差の関係を分析するために、労働供給を内生にした2地域モデルを構築し、労働供給が産業集積に及ぼす影響を分析した。その結果、労働供給が弾力的であることが、企業集積を促す効果を持つことを示した。さらに、企業集積を抱える地域における労働供給や賃金の特性も明らかにした。2020年にJournal of Public Economic Theory誌に掲載された論文では、労働市場が不完全であるときの企業に対する補助金競争を分析し、労働市場の摩擦が大きく失業問題が深刻である場合、補助金競争が雇用改善を通じて社会厚生を改善できる可能性を示した。また、最適な補助金との比較も行い、補助金競争の非効率性も明らかにした。2020年にInternational Tax and Public Finance誌に掲載された論文では、資本課税による公共財の供給が多数決で決定される多地域世代重複モデルにおいて人口動態の影響を考察した。その結果、若年世代中心の地域では生産活動が重視されるため資本課税が過度に抑えられ、老年世代中心の地域では逆に資本課税が過度に行われることを示した。こうした一連の研究は、地域経済政策を考えるうえで、その地域の労働市場の特性を考慮に入れることの必要性を示しており、学術的貢献に加えて、政策的含意も大きいと考えられる。
 また、森田氏は、国際雑誌への論文掲載に加えて、国内外の学会にも極めて積極的に参加するなど、社交性に富んでおり、今後の応用地域学会の活動の牽引役として期待できる。以上の理由により、2022年度坂下賞を森田忠士氏に授与することとする。

2022年度 坂下賞選考委員会
   委員長 佐藤 泰裕(東京大学)
   委 員 山本 和博(大阪大学)
   委 員 塚井 誠人(広島大学)
   委 員 奥村 誠 (ARSC会長)
   委 員 高橋 孝明(ARSC副会長)


2021 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 藤嶋 翔太
一橋大学大学院経済学研究科 准教授

授賞理由:
 藤嶋翔太氏は、地域間の人口移動動学の理論分析において先駆的な研究を行い、その成果は、国際雑誌・国内雑誌にそれぞれ8編・5編の論文が査読を経て掲載されている。
 2013年にRegional Science and Urban Economics誌に掲載された論文では、都市システムモデルを用いて、集積による外部性により複数均衡が生じる場合でも、政府が外部性を内部化することにより、最適都市人口規模分布が大域的な安定均衡として実現し得ることを示した。2013年にJournal of Economic Dynamics and Control誌に掲載された論文では、都市間の人口分布を個々の家計が立地スケジュールを選択するゲームの結果としてとらえ、進化ゲーム理論のアプローチを用いて均衡の安定分析を行った。その結果、若年期に大都市に住み、老年期には人口の少ない地域に住み替えるという、実経済において観察される現象が安定均衡として得られることを示した。2017年にJournal of Mathematical Economics誌に掲載された論文では、離散空間における社会的相互依存モデルについて均衡の分析を行った。離散空間の下では常に均衡が複数になる一方で、それらの均衡は、空間が連続に近づくに従って、連続空間の唯一の均衡に収束していくことを示した。この結果は、離散空間モデルを用いて連続空間モデルで得られる結果の実証分析を行うことの正当性の論拠となる。
 藤嶋氏は、経済学・土木工学・物理学・地理学など多様な分野の専門家らとの共同研究に取り組んでおり、これまでの業績に加え、学際性が強みである応用地域学会のリーダーとしてふさわしい人物であると考える。よって、2021年度坂下賞を藤嶋翔太氏に授与することとする。

2021年度 坂下賞選考委員会
   委員長 森 知也 (京都大学)
   委 員 佐藤 泰裕(東京大学)
   委 員 山本 和博(大阪大学)
   委 員 奥村 誠 (ARSC会長)
   委 員 高橋 孝明(ARSC副会長)


2020 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 瀬谷 創
神戸大学大学院工学研究科 准教授

授賞理由:
 瀬谷創氏は、地域科学の主たる一分野である空間計量経済学において理論・実証両面から研究を行い、Regional Science and Urban Economics や Papers in Regional Science, Transportation Research Part A: Policy and Practice といった国際誌にこれまで28編(内IF付22本)、国内誌に19編の論文を刊行している。2013年の論文では、空間計量経済モデルにおいて、最適な空間重み行列と説明変数をAIC最小化の観点から同時選択するアルゴリズムを開発した。提案手法は多重共線性が存在する下でも、安定的に動作する実用性を備えている。2015年の論文では固有ベクトルフィルタリングと呼ばれる空間計量経済モデルにおいて、固有ベクトルの選択に機械学習を応用した新たな方法を提示した。同手法は、高速かつ頑健なモデル特定化が可能であり、手法の汎用性を大いに高めた。2020年の論文では、無条件分位点回帰の空間計量経済モデルへの拡張を行った。同手法は異質性を持つデータを対象とした幅広い実証分析での活用が期待される。
 さらに瀬谷氏は、空間データのモデリングが地域科学から派生した空間計量経済学と、鉱山学から派生した地球統計学と呼ばれる分野にまたがる点に問題意識を持ち、瀬谷・堤 (2014)『空間統計学』(朝倉書店)および Yamagata and Seya (2019) Spatial Analysis Using Big Data (Academic Press) の2書を刊行した。これらテキストは2つの学問分野を俯瞰し、それらの相違と長所・短所について解説しており、類書はほぼ見られない。その内容は空間計量経済学に本格的に取り組む実務者・研究者を導く貴重なテキストであって、学問分野への貢献が大きい。
 瀬谷氏は、第1回の応用地域学会論文賞(2013)を受賞し、ARSC大会において2009年以降、1年を除いて毎年口頭発表を行っている。さらに、『応用地域学研究』にも4本の論文と1本の書評を発表、大会実行委員(第30回)、プログラム委員(第33回)、運営委員(令和2年度)を担当するなど、当学会への貢献は非常に大きい。よって2020年度坂下賞を瀬谷創氏に授与することとする。

2020年度 坂下賞選考委員会
   委員長 松島 格也(京都大学)
   委 員 森 知也 (京都大学)
   委 員 佐藤 泰裕(東京大学)
   委 員 大澤 義明(ARSC会長)
   委 員 奥村 誠 (ARSC副会長)


2019 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 高山 雄貴
金沢大学理工学研究域 准教授

授賞理由:
 高山雄貴氏は、交通経済学では交通混雑の理論、空間経済学では多地域経済における集積形成の理論について先駆的な研究を行ってきた。その成果として国際雑誌・国内雑誌にそれぞれ13編・36編の論文が査読を経て掲載されている。2015年にTransportation Research Bに掲載された論文では、Henderson(1981)による古典的研究の一般化に取り組み、Vickrey(1969)型のボトルネック混雑モデルを採用するとともに、企業による始業時刻選択を離散的に取り扱うなど、既存の研究に比べてより現実的な定式化を行った。このような定式化は解析上の困難を伴うが、ポテンシャルゲームの理論を援用することにより、均衡解の理論的特性を見通しよく導出することに成功している。2017年にJournal of Urban Economicsに掲載された論文は、これまで静学分析に終始していた交通混雑と土地利用に関する研究の動学化に取り組んだものであり、動的な交通混雑を適切に記述するボトルネックモデルを用いて分析した結果、混雑料金を課することにより土地利用がより分散化するという、静学分析とは反対の興味深い結果を得ている。2012年にJournal of Economic Dynamics and Controlに掲載された論文では、離散フーリエ解析を応用した多地域経済における集積形成の理論分析枠組みを開発し、厳密解析が地域間距離の多様性を捨象した2地域モデルや都市システムモデルに限られてきた従来の都市・地域・空間経済学において、多数の集積形成を含む経済集積パターンについて系統的な解析を初めて可能にした。
 高山氏は現在、土木工学・都市計画及び経済学を横断する研究グループの中心的メンバーとして、多地点・地域経済における汎用的な解析枠組みの開発を進めるとともに、それを用いて都市内の都心形成/土地利用、広域地域経済における産業・人口の空間的コーディネーション及び、それらの知見を生かした高速道路整備効果等の具体的な政策分析について研究を進めている。これまでの業績に加え、学際性が強みである応用地域学会のリーダーとしてふさわしい人物であると考える。よって2019年度坂下賞を高山雄貴氏に授与することとする。

2019年度 坂下賞選考委員会
   委員長 村田 安寧(日本大学)
   委 員 松島 格也(京都大学)
   委 員 森 知也 (京都大学)
   委 員 大澤 義明(ARSC会長)
   委 員 奥村 誠 (ARSC副会長)


2018 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 伊藤 亮
東北大学大学院情報科学研究科 准教授

授賞理由:
 伊藤亮氏の代表的な研究テーマは、動学的な複数地域モデルを用いた経済成長と経済活動の空間的分布の変遷に関する理論的研究であり、その成果は5編の英文学術誌論文をはじめ、邦文査読付き論文2編などの論文に取りまとめられている。これらの研究では、動学モデルの定常状態の近傍だけでなく、モデルの大域的な振る舞いを見ることで、長期的な経済発展に関するいくつかの重要な示唆を得ている。
 例えば、Itoh (2009, Journal of Urban Economics) では、都市における異時点間の正の生産外部性と負の混雑外部性を考慮した、動学的な農村―都市モデルを用いて、長期的な社会厚生最大化を目的とする中央政府による、人口移動の制御経路について理論的に分析している。その結果、経済発展の初期には都市への人口流入を加速させ、また後半には流入を減速させながら都市を成長させる政策の必要性が示された。また、Itoh (2014, Regional Science and Urban Economics) では、不完備情報の下での2国間企業立地選択をモデル化し、企業間取引ネットワークにおける各企業のKatz-Bonacich中心性が企業の集中化傾向を決定づけるとともに、各国政府が企業の次数中心性に応じた税率引き下げを提示するという結果が示されている。さらに、Itoh (2013, Urban Studies)のような、工業団地販売価格を用いた、企業の付け値に関する実証分析では、企業による支払意思額と自治体等による販売価格設定基準の間に、都市への近接性などに関するいくつかの有意な乖離があることを示した。
 伊藤氏が刊行した論文の一つ一つが力作であり、国際誌に載せた5編すべてが単著である。このことは、伊藤氏が独立した研究者として論文を国際的に発信できることを示している。また、それらの論文を精力的に応用地域学会で発表し、応用地域学会の学問水準の向上に貢献している。そのため、若い優れた研究者を顕彰することを目的とした坂下賞の受賞者としてふさわしいと考え、2018年度坂下賞を伊藤亮氏に授与することとする。

2018年度 坂下賞選考委員会
   委員長 城所 幸弘(政策研究大学院大学)
   委 員 村田 安寧(日本大学)
   委 員 松島 格也(京都大学)
   委 員 安藤 朝夫(ARSC 会長)
   委 員 大澤 義明(ARSC副会長)


2017 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 直井 道生
慶應義塾大学 経済学部 准教授

授賞理由:
 直井道生氏は、特に住宅市場との関連で、幅広い家計行動を対象とした実証分析を行ってきており、その成果は10編の英文学術誌論文をはじめ、邦文査読付き論文7編などの論文や4冊の書籍(英文1、和文3)などに取りまとめられている。同氏の貢献は都市・住宅市場、家計行動、自然災害リスクの分析など、幅広い研究対象に対して、多様なマイクロデータと、適切なミクロ計量経済モデルを組み合わせることで、精緻な実証分析を行ない、そこから重要な政策的含意を導出している点にある。たとえば、Naoi, Seko, and Sumita (2009) では、家計の自然災害に対するリスク認知に着目し、周辺地域で大規模な地震の発生後には、地震リスクが住宅価格に帰着することを示した。また、Moriizumi and Naoi (2011) では、家計の異質性を潜在クラスによって特徴づけたハザードモデルを提示し、失業リスクが家計の住宅取得タイミングに及ぼす影響を検証している。さらに、Iwata and Naoi (2017) では、家計の出生行動に着目し、住宅資産の変動が非対称な影響をもたらすことを示した。同氏は国際的にも活躍しており、今後のさらなる発展が期待される。よって2017年度坂下賞を直井道生氏に授与することとする。

2017年度 坂下賞選考委員会
   委員長 多々納 裕一(京都大学)
   委 員 城所 幸弘(政策研究大学院大学)
   委 員 村田 安寧(日本大学)
   委 員 安藤 朝夫(ARSC 会長)
   委 員 大澤 義明(ARSC副会長)


2016 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 相浦 洋志
大分大学経済学部 准教授

授賞理由:
 相浦氏は、空間競争の枠組みに精通し、その精緻化を行うとともに、他分野へと拡張することで興味深い成果を上げてきた。2008年Regional Science and Urban Economicsに掲載された論文は立地により原材料の調達費用が異なる場合の空間競争を想定し、その下では、複数均衡が生じうること、そして非対称な均衡の方が効率性の観点からは望ましいことを示した。2010年Annals of Regional Scienceに掲載された論文は需要が不確実な下での空間競争を扱っており、ライバルの立地行動から消費者についての情報を入手できると、先に意思決定を行う企業が、後続の企業に情報を隠す行動をとることを示した。2013年Journal of Public Economicsに掲載された論文はcross-border shopping が存在する下での租税競争を定式化し、地方政府が従量税と従価税のどちらを選択するのか、そして、その意思決定は効率的かを明らかにした。2014年Canadian Journal of Economicsに掲載された論文は単一中心都市モデルに出生率の決定を導入し、都市内部での出生率のパターンを再現できる枠組みを構築した。現在、相浦氏は、空間競争の枠組みで、公営病院の民営化の是非を問う研究を行い、継続的に活躍してきたことが分かる。
 また、相浦氏は報告者や討論者としてARSC研究報告大会に参加し、学会に貢献している。よって2016年度坂下賞を相浦 洋志氏に授与することとする。

2016年度 坂下賞選考委員会
   委員長 曽 道智(東北大学)
   委 員 多々納 裕一(京都大学)
   委 員 城所 幸弘(政策研究大学院大学)
   委 員 文 世一(ARSC 会長)
   委 員 安藤 朝夫(ARSC副会長)



2015 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 中島 賢太郎
東北大学大学院経済学研究科 准教授

授賞理由:
 中島氏は、これまで歴史データやネットワークデータなど、ユニークなデータを用いて日本の空間経済学の分野において希少である実証研究で中心的な貢献を果たしている。これまでの研究業績は、10編以上の国際誌および国内誌に査読論文として掲載され、その研究成果から地域政策に多くの含意を導出している。
 例えば、2008年にJournal of the Japanese and International Economiesで出版した論文では第二次大戦後の朝鮮の日本からの分離独立を自然実験として、これが日本の経済活動の空間的分布に与えた影響を分析することで、市場アクセスが地域経済に正の役割を果たすことを示した。また、2014年にRegional Science and Urban Economicsで出版した論文では、近代日本の製糸業ミクロデータを用いることで当時の製糸業集積地における生産性の高さが、集積の技術的外部効果ではなく、競争による淘汰効果によるものであることを示した。近年は、ネットワークデータを用いた分析を中心に行っており、2015年にJournal of Regional Scienceで出版した論文では、東日本大震災後にサプライチェーン・ネットワークが製造業事業所の復旧を助けた効果を見出している。2014年にJournal of the Japanese and International Economiesで出版した論文では、国内取引ネットワークが日本企業の海外工場立地選択に影響を与えていることを明らかにしている。
 また、中島氏は近年毎年報告者や討論者として研究報告大会に参加しているのみならず、運営委員やプログラム委員を務めるなど、学会への貢献は大である。よって2015年度坂下賞を中島賢太郎氏に授与することとする。

2015年度 坂下賞選考委員会
   委員長 浜口 伸明(神戸大学)
   委 員 曽 道智(東北大学)
   委 員 多々納 裕一(京都大学)
   委 員 文 世一(ARSC 会長)
   委 員 安藤 朝夫(ARSC副会長)



2014 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 円山 琢也
熊本大学政策創造研究教育センター

授賞理由:
 円山琢也君の主たる貢献は、Regional Science, 交通計画学・土木計画学の分野において、理論的研究・実証的な研究を進め、国内外の学術誌に多数の査読付き論文を発表するとともに、研究成果の交通計画の実務への反映を行っている点にある。
 より具体的には、まず交通需要の集計レベル別の便益指標が厳密な積分による理論値では一致するが、一般に利用される台形公式による近似値では一致しないという政策的に重要な性質を実証的に明らかにしている (土木学会論文集D, 2006)。この実証分析においては、同君が構築した交通需要統合型ネットワーク均衡モデルの大規模都市圏への適用研究が基盤になっており、ミクロ経済学的根拠をもった道路投資の需要予測・便益評価の体系を提示している。
 また、代表的な次善の道路混雑課金政策であるエリア課金とコードン課金の違いを的確に表現できるトリップチェイン均衡モデルを提案し(Transportation Research Part A, 2007)、最適課金領域の設定法など関連した分析を続けている。さらに、2012年度熊本都市圏パーソントリップ調査 (交通実態調査) と連携し、スマートフォンを活用した新たな交通調査法の開発と試行に取り組んでいる。調査対象者の負担を軽減しながら、既存の紙面による調査法を補完し、より奥深い行動理解が可能となるデータの収集法であり、今後の発展が期待される。
 以上より円山琢也君の研究活動は、ミクロ経済学的根拠に基づく交通需要予測・便益評価に対する理論面・実証面での貢献に加え、新たなデータの収集法についても、実務者と共同活動で成果を挙げている特徴がある。また本学会の年次大会プログラム編成委員の経験など、学会の運営への貢献も少なくない。よって円山君を本年度の坂下賞受賞者として決定した次第である。

2014年度 坂下賞選考委員会
   委員長 小林 潔司(京都大学)
   委 員 浜口 伸明(神戸大学)
   委 員 曽 道智(東北大学)
   委 員 中村 良平(ARSC 会長)
   委 員 文 世一(ARSC副会長)



2013 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 隅田 和人
東洋大学経済学部 准教授

授賞理由:
 隅田和人氏の主たる貢献は、応用計量経済学、不動産経済学、住宅経済学の分野において10編以上の国際誌および国内誌に掲載された査読論文を執筆し、多くの実証的な研究を実施するとともに、そこから数多くの住宅政策的含意を導出している点にある。なかでも、2003年の『応用地域学研究』に掲載された論文では、持家住宅取得者の住宅ローン残高に応じた所得税控除税制が、東京都区部の中古マンションの品質調整済み住宅価格指数に及ぼす影響を分析し、住宅ローン減税による実効補助率の増加は、住宅価格を上昇させるほど十分な影響を及ぼしているとは言えないが、実効補助率の住宅価格への影響は、控除制度の拡充とともに増大したということを示した。日本における住宅ローン減税の住宅価格への影響を、時系列データを用いて分析した既存研究は存在せず、政策的にも意味のある研究となっている。さらに、2007年の論文では、パネルデータを用いて、日本の住宅市場に特有な2つの政策、つまり2004年に導入された持ち家の譲渡損失繰越控除制度ならびに借地借家法が転居に与える影響を、ハザード・モデルにより分析した。住宅資産制約に注目して、持家からの転居を分析した先行研究は、海外には若干存在するが、住宅資産制約を緩和する政策(ここでは譲渡損失繰越控除制度)の転居への影響を分析した既存研究はなく、本研究が最初のものである。また、日本の借地借家法による継続家賃は、暗黙の家賃補助であるが、このような形での家賃統制が転居に及ぼす影響を分析した研究は、本研究が初めてである。
 以上、隅田氏はいずれの論文においても、特に都市・地域経済学で重要なテーマである住宅価格変動に対する住宅政策の影響を、時系列データと個票データを利用して厳密な計量経済学的手法により分析し、多くの有益な成果を得ている。また本学会にもほぼ毎年発表者や討論者として積極的に参加しており、学会活動に大きく貢献している。よってここに2013年度坂下賞を授与する。

2013年度 坂下賞選考委員会
   委員長 瀬古 美喜(武蔵野大学)
   委 員 小林 潔司(京都大学)
   委 員 浜口 伸明(神戸大学)
   委 員 中村 良平(ARSC 会長)
   委 員 文 世一(ARSC副会長)



2012 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 塚井 誠人
広島大学工学研究院 准教授

授賞理由:
 塚井誠人氏の主たる貢献は,地域科学,交通モデリング,空間計量経済学の分野において50編以上の査読論文を執筆し,多くの実証的研究を実施するとともに,定量的な評価結果から地域政策の立案に有用な政策的含意を数多く導き出している点にある.なかでも、2002年,2007年のいずれも「土木学会論文集」に掲載された論文では,時空間計量経済モデルを用いて社会資本の生産力効果を分析している.このうち,2002年の論文では,生産活動による知識ストックが空間的にスピルオーバーする効果を考慮した地域生産関数を用いて社会資本の生産力効果を明らかにしている。塚井氏は本研究によって,土木学会論文奨励賞を受賞している.さらに,2007年の論文では,社会資本の整備効果が長期間にわたって発現することに着目し、長期的タイムラグ分布構造を考慮した地域生産関数モデルを推計することより,社会資本整備効果の時間的な波及効果と空間的な波及効果を定量的に把握することに成功している.社会資本の生産性分析は地域科学分野においても重要なテーマのひとつであり,特に近隣地域へのスピルオーバー効果は,最適資本配分の観点からみても有益な研究成果が求められている研究課題である.さらに,社会資本の効果が発現するラグ構造を分析していることは,将来の地域政策の立案に資する「公共投資関数」の導出に対して有益な知見を与えると考えられる.
 以上,塚井氏はいずれの研究論文においても,特に都市・地域科学で重要な研究対象テーマである社会資本の生産性に関して,最近の空間計量経済学の手法を用いて緻密で厳密な実証分析を行い,多くの有益な成果を得ている.理論研究のみならず実証分析を重要視する応用地域科学の分野において,重要な貢献を果たしている.また本学会においても運営委員や年次大会プログラム編成委員を務めており,学会の運営に大きく貢献している.よって,ここに2012年度坂下賞を授与する.

2012年度 坂下賞選考委員会
   委員長 佐々木 公明(尚絅学院大学)
   委 員 瀬古 美喜(慶応義塾大学)
   委 員 小林 潔司(京都大学)
   委 員 黒田 達朗(ARSC 会長)
   委 員 中村 良平(ARSC 副会長)



2011年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 山本 和博
大阪大学経済学研究科 准教授

授賞理由:
 新経済地理学のフレームワークを用いた,産業集積,人口分布に関する緻密な理論分析を行い,評価の高い国際誌にこれまで7編の論文を刊行し,2編の刊行予定の論文を完成させている.このことは都市地域科学の分野で,間違いなく将来を嘱望できる研究者であることを示している.特に,2005年のRegional Science and Urban Economicsに掲載された論文において,経済地理学を一般化し,収穫一定技術と収穫逓増技術を企業が選択できる興味深いモデルを提示し,各国における産業化の過程の違いや産業集積の違いを理論的に説明することに成功している.また,Journal of Population Economicsに(刊行予定も含めて)2編の論文を掲載するなど,日本において少子高齢化対策が重要な課題にある時期に,人口動態をも分析対象とするなど研究領域を開拓する精神にも満ちている.
 さらに,山本氏は比較的若い時期から教育熱心で,既に都市地域科学で自立している優れた研究者を育て上げていることは賞賛に値し,応用地域学会の発展のための貢献が大きい.以上の理由によって,2011年度坂下賞は山本和博氏に授与することが適切であるとの結論に至った.

2011年度 坂下賞選考委員会
   委員長 佐々木 公明(尚絅学院大学)
   委 員 赤松 隆(東北大学)
   委 員 瀬古 美喜(慶応義塾大学)
   委 員 黒田 達朗(ARSC 会長)
   委 員 中村 良平(ARSC 副会長)



2010 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 小川 光
名古屋大学大学院経済学研究科 教授

授賞理由:
小川光氏は公共経済学、地方財政、都市経済学等の分野で幅広い研究活動を展開しているが、最大の貢献は、地域間のスピルオーバーに焦点を当てた地域政府間の財政競争に関する一連の研究である。その?要なものは以下の3つの論文である。 2006 年のAnnals of Regional Science(単著)は、地方公共財の便益が地域外にスピルオーバーする可能性と、地域間競争における財政上の外部性の双方を考慮し、資本税競争モデルにおいてスピルオーバー効果が存在する場合には、財政上の外部性を原因にした資源配分の歪みがむしろ小さくなることを明らかにした。モデルの中で取り上げられている2つの要素がいずれも公共財の過?供給の原因になるものであるにも関わらず、両者が同時に存在することによって、過?供給の度合いが逆に小さくなるという興味深い結論を得ている。
2007年のFinanz Archivの論文(単著)は、Depater and Myers (1994, JUE)を拡張したものである。Depater and Myersは、「初期の資本保有量に差がある2つの非同質的な国が資本税競争を行う場合には、資本輸入国がプラスの資本税率を設定し、資本輸出国はマイナスの資本税率を設定する」ことを示した。しかし、現実にはその逆のケースも観察される。この論文では公共財の国際的なスピルオーバー現象を導入することにより、スピルオーバー効果の大きさに?じて、Depater and Myers が扱った資本輸入国が正、資本輸出国が負の税率を選択する場合に加え、両国ともに正の税率を設定する場合、両国ともにマイナスの税率を設定する場合が均衡となりうることを示した。
2009 年のAmerican Economic Review の論文はDavid Wildasin との共著であるが、地方公共財のスピルオーバー現象を対象として、「外部性が存在すると経済の資源配分は歪んだものになる」という常識的な見解が必ずしも成立しない場合があることを示した。具体的には、資本の国際的移動が自由な状況での財政競争モデルにおいては、例えば公害等の「外部性の生産関数」が各国で異なることが資源配分を歪ませる基本的原因であって、外部性の存在自体が資源配分を歪ませる原因にはならないことなどを明らかにしたものである。
これらの研究成果からわかるように、小川光氏は地域科学ないし都市・地域経済学の中でも、最も伝統的かつ中心的なテーマの一つである地方公共財の供給問題等をテーマとしつつ、古典的な定理の再検討を中心に精力的な研究を続けており、数多くの優れた業績をあげている。以上より、2010年度坂下賞の受賞者として、小川光氏が相?しいと判断された。

2010年度 坂下賞選考委員会
   委員長 金本 良嗣(東京大学)
   委 員 赤松 隆(東北大学)
   委 員 佐々木 公明(尚絅学院大学)
   委 員 田渕 隆俊(ARSC 会長)
   委 員 黒田 達朗(ARSC 副会長)



2009 年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 松島 格也
京都大学大学院工学研究科准教授

授賞理由:
松島格也氏の主たる貢献は,土木計画学,交通経済学の各分野において,従来,十分な注意が向けられていなかった市場の不完全性(マッチング・市場厚・戦略的補完性等の外部性,不確実性)に着目した理論を構築するとともに,地域・交通政策の立案にあたって有用な政策的含意を数多く導き出している点にある.交通市場のメカニズムを理論的に解析し,そこに内在する外部性の存在とその克服方法について分析している.1999 年,2001 年,2003 年の一連の論文(土木学会論文集,土木計画学研究論文集)では,タクシー市場を例に取り上げて,同質な主体による期待形成メカニズムを通じて市場が内生的に形成されるメカニズムを明らかにしている.不完全な憶測と取引費用の存在が原因となって生じる市場厚の外部性の存在を指摘するとともに,市場差別化政策や運賃規制政策の効果を定性的に示している.
また,2006 年,2008 年,2009 年の一連の論文では,容量に制約のある交通サービス市場を対象として,不確実性を持つ交通サービスの予約行動と料金設定に関する分析を行っている.2006 年の論文では,料金支払いタイミングの違いによる家計と企業の間のリスク分担構造を理論的に説明し,事後割引料金の優位性を証明している.2008 年の論文では,予約システムが有する私的情報の顕示メカニズムを指摘するとともに予約システムの持つ各種便益を定性的に評価している.さらに2009 年の論文では通時的差別化料金システムが持つ効率的割り当て便益の存在を指摘するとともに,社会的余剰にもたらす影響を評価し,料金規制の必要性について理論的に証明している.これらの論文はいずれも,将来に対するコミットメントと意思決定の自由度を定性的に評価するものである.この他にも,いくつかのユニークな研究を手掛けており,例えば,利他的支払い意思を考慮したバリアフリー施設の経済便益評価とその調査法に関する研究で土木学会論文奨励賞(2002 年度)を受賞している.
いずれの研究論文も,市場の不完全性にともない発生する様々な外部性が存在する状況のもとで,料金政策や公共財投入といった各種公共政策が地域経済にどのような影響をもたらすかを分析し,現実の地域・交通政策に有益な示唆を与えている.理論研究のみならず政策的分析を重要視する応用地域科学の分野において,重要な貢献を果たしている.以上より,2009 年度坂下賞の受賞者として,松島格也氏が相応しいと判断された.

坂下賞の表彰は、応用地域学会総会の中で行われ、松島格也氏には、田渕隆俊会長から、表彰状(盾)と金一封が授与されました。

2009年度 坂下賞選考委員会
   委員長 藤田 昌久(甲南大学)
   委 員 金本 良嗣(東京大学)
   委 員 赤松 隆(東北大学)
   委 員 田渕 隆俊(ARSC 会長)
   委 員 黒田 達朗(ARSC 副会長)



2008年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者;村田安寧(むらたやすさだ) 
日本大学大学院総合科学研究科准教授

受賞理由:
村田氏の主要な貢献は、空間経済学(new economic geography)、地域科学、開発経済学において理論を構築し発展させ、新分野を開拓したことである。JUEに掲載された三編の論文は、空間経済学における分散力に関する一連の研究である。空間経済学のモデルには、企業間の連関による集積力がある一方で、分散させる力がある。2003年の論文では、消費者の地域選好の異質'性が分散力として働くこと、2004年の論文では、通勤費用や地代が分散力として働くことを理論的に示した。また、2007年の論文では、2003年の論文をマーケティングの観点から分析を行った。2008年のJET論文では、空間経済学のモデルを一般化した。KrugmanのJPE論文のモデルにない競争促進効果と、Ottaviano-Tabuchi-ThisseのIER論文のモデルにない所得効果の両方を持ち合わせた理論モデルを開発した。JDEに掲載された二編の論文では、地域間の移動とともに農業工業間の移動を扱い、農業生産と工業生産が相互依存的であることに着目したモデルを提示し、エンゲル法則、ペテイの法則、および都市集積を内生的に導いた。
 このほかにも、いくつかの興味深い研究を行っており、その成果をワーキングペーパーにまとめている。一例を挙げれば、都市財政におけるヘンリー・ジョージ定理が成り立つために効用関数が満たすべき性質に関する研究、企業の生産性が異質な場合に生じる市場均衡の分析などである。
 いずれの研究論文も、厳密な理論に立脚し、織密な論理を積み重ねて書かれており、かつ高度な分析をしつつ、豊かな内容になっていて、高く評価できる。また、都市。地域の経済成長、地域間の所得格差、社会厚生などの社会的課題にも言及しており,理論と同時に都市。地域政策的分析をも重視する応用地域科学の分野において、将来が非常に期待出来る本格的な研究者である。よって村田氏を坂下賞候補として推薦をする次第である。

坂下賞表彰式は、応用地域学会総会終了後に行われ、村田安寧氏には、小林潔司会長から、表彰状(盾)と金一封が授与されました。

2008年度 坂下賞選考委員会
   委員長 岡部 篤行(東京大学)
   委 員 藤田 昌久(甲南大学)
   委 員 金本 良嗣(東京大学)
   委 員 小林 潔司(ARSC会長)
   委 員 田渕 隆俊(ARSC副会長)



2007年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者;佐藤泰裕(さとう やすひろ) 
名古屋大学環境学研究科准教授

受賞理由:
佐藤氏の貢献は理論的独創性とその緻密な論理性にある。氏の研究テーマは労働経済学から派生しているが、job-search, mismatch, training cost を介して都市の設定の中で空間構造と労働市場のパフォーマンス間の相互依存関係を解明することによって、都市経済学あるいは地域経済学の新しい分野を開拓することに貢献している。2001年のJUE論文では、都市に人口が集中することは必ずしも集積の利益を引き起こさない。その一つの理由は労働市場におけるmismatch に起因し、実質的な賃金(生産性)は必ずしも上昇しないことである。集積の利益が働くためにはjob search skillが収穫逓増の場合であることを示した。また2004年JUE論文では都市における労働市場と土地市場の一般均衡モデルで都市交通システムの改善がjob matchを増加させ、失業を軽減することを示した。また2000年のEL論文ではHarris-Todaroモデルの示唆とは逆に生産性(賃金率)が高い地域ほど失業率が低いことを示した。また、2006年Economics Bulletin 論文や2007年JUE論文では地域間人口移動について、賃金、失業率などの労働市場の変数に加え、出生率や死亡率などの人口学的要因も考慮して、現実的モデルを構築し、人口移動がスキル形成に与える影響を明らかにしている。
 さらに、スキルミスマッチや賃金の硬直性といった労働市場の不完全性が存在する時に、地方政府の課税や公共財供給が地域経済にどのような効果を持つか、それらの意思決定が効率的か、という地方財政の課題について研究を広げ、地域・都市政策立案にも有効な成果を挙げつつある。理論と同時に政策的分析をも重要視する応用地域科学分野で、将来性が非常に豊かな研究者である。 

坂下賞表彰式は、12月8日の応用地域学会総会終了後に行われ、佐藤泰裕氏には、小林潔司会長から、表彰状(盾)と金一封が授与され、次年度の研究発表大会において特別講演をしてもらうことなどの報告がありました。

2007年度 坂下賞選考委員会
   委員長 佐々木 公明(東北大学)
   委 員 岡部 篤行(東京大学)
   委 員 藤田 昌久(京都大学)
   委 員 小林 潔司(ARSC 会長)
   委 員 田渕 隆俊(ARSC 副会長)



2006年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者: 城所 幸弘
政策研究大学院大学助教授

受賞理由:
 城所幸弘氏は、都市経済、都市交通、費用便益分析、規制の経済学といった広範な分野において、政策的な重要性が大きい研究に取り組んできている。これらの研究成果の多くは、国際一流ジャーナルに掲載されており、質の高い業績である。
 城所氏の主要な研究テーマは、都市鉄道等の規制政策と交通投資の費用便益分析の2つである。前者に関する第一の研究では、現実の都市鉄道運賃規制が簿価ベースの校正報酬率規制であったことに着目して、このことが不十分な鉄道投資をもたらして、大都市における極端な混雑現象の一因になったことを理論的に解明した(Regional Science and Urban Economics 1998)。規制政策に関する研究の第二の流れは、様々な規制方式がサービス品質に与える影響を分析した一連の研究である(Journal of the Japanese and International Economies 2002, Journal of Transport Economics and Policy, 2003, Transportation Research Part A 2006)。これらの研究では、規制政策の理論的分析にとどまらず、シミュレーションを用いた定量的分析にも及んでいる。交通投資の費用便益分析に関しては、通常の消費者余剰分析、完全代替を仮定するWardropタイプモデル、ロジットモデルの3つの間の関係を分析し、実務で用いられている費用便益分析手法の改善に貢献した研究(Transportation Research Part B 2006)と、交通ネットワークを明示的に導入したモデルを用いて、価格体系の歪みが存在する場合の便益計測手法を導出した研究(Journal of Transport Economics and Policy 2004)の2つが代表的なものである。これらの研究は、学問的貢献が高く評価されるのみならず、費用便益分析の実務に大きく貢献することが期待できる。
 以上のように、城所幸弘氏は、政策的含意の大きい研究を幅広く進めており、世界的に高く評価されている。また、国際誌に掲載された論文はすべて単著であり、業績の掲載誌も、Regional Science and Urban Economics, Journal of Transport Economics and Policy, Transportation Research, Information Economics and Policy, Journal of the Japanese and International Economiesと、多岐にわたっており、多様な研究者に評価されている。これらのことから、2006年度坂下賞の受賞者としてふさわしいと判断される。

坂下賞表彰式は、応用地域学会総会終了後に行われ、城所幸弘氏には、柏谷会長から、表彰状(盾)と金一封が授与されました。

2006年度 坂下賞選考委員会
   委員長 金本 良嗣(東京大学)
   委 員 佐々木 公明(東北大学)
   委 員 岡部 篤行(東京大学)
   委 員 柏谷 増男(愛媛大学 ARSC会長)
   委 員 小林 潔司(京都大学 ARSC副会長)



2005年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者;曽 道智(Zeng, Dao-Zhi)
香川大学大学院地域マネージメント研究科助教授

受賞理由:
曽氏はこれまで、J.of Economic Geography, J.of Development Economics, RSUE, JRS ,IEEE Transactions などの国際ジャーナルに16編の論文を発表(予定を含む)している。国際ジャーナルに現在投稿中の論文も数編ある。また、国内外の学会での口頭発表も頻繁で、活発な研究活動を展開している。曽氏の研究テ−マは大別して、2つある。一つは空間経済学に関連するもので、解析可能なモデルの開発を行い、特に工業部門の立地分布に関して農業部門の役割を明らかにした。この成果をさらに発展させ、「産業再分散」が生ずる条件を明らかにしている。本研究の成果に対して2004年のSpringer-Verlag賞が授与された。この一連の研究の中で、動学モデルの均衡安定性条件を分析したことも大きな貢献である。曽氏のもう一つの研究テーマは地域間コンフリクト分析である。ゲーム理論の手法を用いて新しい仲裁法の開発に成功し、Law and Economicsの専門家の注目も集めている。さらに、理論的分析に加え、新たに実験経済学の手法を導入し、これまでの理論成果を実用化する道も探っている。仲裁メカニズムの実用化を目指した研究は実践的地域科学の重要な分野である。総じて、曽氏はその高い数学的分析能力を生かした、学際的研究者として高く評価される。以上のように、曽道智氏は応用地域学会が世界に誇りうる業績を上げてきた若手の研究者であり、将来における更なる活躍が期待できる。よって、2005年度坂下賞の受賞者として相応しいと判断された。

坂下賞表彰式は、応用地域学会総会終了後に行われ、曽道智氏には、柏谷会長から、表彰状(盾)と金一封が授与されました。

2005年度 坂下賞選考委員会
   委員長 藤田 昌久(京都大学)
   委 員 金本 良嗣(東京大学)
   委 員 佐々木公明 (東北大学)
   委 員 柏谷 増男(愛媛大学 ARSC会長)
   委 員 小林 潔司(京都大学 ARSC副会長)



2004年度坂下賞 (Sakashita Prize)
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受賞者;森 知也
京都大学経済研究所助教授

受賞理由:
森知也氏はペンシルバニア大学地域科学部博士課程での学生時代および日本への帰国後を通じて、いわゆるNew Economic Geography (NEG)のフロンティア開拓において、共同研究および独自の研究を行うことにより、世界的に認められる研究成果を継続的にあげてきた。これらの研究成果の一部は、すでに7編の論文として世界的に評価の高いレフリー付英文ジャーナルに、また、3編の招待論文として英文学術専門書に掲載されている。さらに、それらの論文は世界中のNEGの研究者によって頻繁に引用されてきている。特に、都市システムの形成と発展に関する2編の論文は、経済学の各分野における過去半世紀の代表的な論文を集めた、The International Library of Critical Writings in Economic Series (Edward Elgar Publishing, 2005)におけるSpatial Economics の巻に含まれることが決定している。それらすでに発表された論文の多くは理論研究であるが、最近では森氏はNEGや空間経済についての実証研究も平行して進めてきており、研究成果の一部はすでに2編のDiscussion Paperとして発表されている。以上のように、森知也氏は応用地域学会が世界に誇りうる業績をあげてきた若手の研究者であり、将来における更なる活躍が期待できる。よって、森知也氏が坂下賞の受賞者として相応しいと判断された。

坂下賞表彰式は、応用地域学会総会終了後に行われ、森知也氏には、井原会長から、表彰状(盾)と金一封が授与されました。

2004年度 坂下賞選考委員会
   委員長 佐々木 公明(東北大学)
   委 員 藤田 昌久(京都大学)
   委 員 金本 良嗣(東京大学)
   委 員 井原 健雄(ARSC会長・北九州市立大学)
   委 員 柏谷 増男(ARSC副会長・愛媛大学)